【ナポリ編】ビスポークテーラー奮闘記⑨
Kitonについて
KITON (キトン)はイタリアを代表するラグジュアリーブランドです。
ビスポークの手法を落とし込んだ、まさに究極の既製服。
世界最高峰と言っても過言ではありません。そんな工場で働けるなんてまさに夢のようです。
Kitonには、約300人以上の職人がいます。その一人一人が丸縫い出来るサルト(職人)です。そのサルトが各パーツ毎に分業をして、1着を仕上げるという贅沢な作り方をしています。
Kitonの敷地はとても広く、その敷地内には3つの工場があります。
それぞれKiton1(ジャケット)、Kiton2(シャツ・セカンドライン「サルトリオ」・レディース)、Kiton3(靴・パンツ・ネクタイ・学校)とあり、アイテムごとに製造場所が決まっています。
《Kitonのサルトたち》
選ばれし職人
荒川はKiton1(ジャケットを作っている工場)に所属することになりました。
そこで出会ったのが、チーロ・クオモです。
チーロは英語が話せるイタリア人で、滞在中は仕事以外のことでも色々と荒川のことを気にかけてくました。
Kitonの中でも最高級のモデルに「Mod. LASA(ラーサ)」というラインがあります。年間の製作着数も限られており、手に取ることさえ難しいと言われている逸品です。
聞くところによるとラーサは、Kitonでも選ばれし職人がたった1人で作っているとのこと•••。
そして、今目の前にいるチーロこそがその職人だというのです。
なんと荒川はそんな凄腕職人のチーロの仕事を手伝いながら、直々にKitonの仕立て技術を教わることになりました。



Mod.LASA
初めてラーサを着た時の衝撃は忘れられません。
羽織った瞬間、肩まわりに吸い付くような感覚に驚きました。
肩にふんわりと乗っている軽さ、それでいて見た目はきっちりとしている。
「何故こんなジャケットになるの?」と不思議でたまりませんでした。
この衝撃的な出来事から思わず、「自分でラーサを作ってみたい」と伝えると快く応じてくれました。
実際に作ってみることで、その技術の中身を深めていきたいと思いました。
荒川自身のラーサを作るために、チーロがKitonのカシミア100%の生地を用意してくれました。
生地代を支払うと言ったのですが、なんとタダでくれたのです。裏から探し出してくれたので、要らない在庫だったのかもしれませんが、なんとも太っ腹な対応に驚きました。もちろんありがたくいただくことに。
Kitonが高級たる所以
ラーサを作るにあたってチーロから教わることは、衝撃の連続でした。
全くと言っていいほど、今まで学び作り上げてきたものとは違ったのです。
今まで学んできた英国の仕立ては、ガッチリと肩まわりを作り込むのが基本です。それにより貫禄のある見た目と背筋が伸びるような着心地が実現します。
英国仕立てを一言で表すならエレガント。それに対してナポリの仕立てはリラックス。まさに正反対の仕立てだと思いました。
①縫い方
「力を抜いて」縫っていく、というのが基本です。言葉で表現するのが難しいですが、引っ張り過ぎない、甘く縫う、ひと縫いひと縫いを置きにいくという感じです。その場に糸をトン、トン、と置いていくイメージです。
これが意外と難しく、何度も何度もやり直しました。
生地自体が柔らかいので、力加減を調整して縫っていかないと着心地の良い服には仕上がらないのです。
②接着芯
Kitonでは柔らかさを貫くため、接着芯を使いません。
既製品を作るオートメーションの工場では、誰でも扱いやすくするため接着芯を入れることが多いです。そうすることで生地が固定されて縫いやすくなります。
接着芯を使わずに作ると言うことは、一人一人が職人であり、ハンドメイドの工場だから出来ることなのです。
③生地
使用される生地も高級品です。
Kitonの傘下に「CARLO BARBERA (カルロバルベラ)」という生地メーカーが入っています。
バルベラがKitonのためだけのスペシャルな生地を作っているのです。質、柄、色、素材が全てエクスクルーシブでかなり贅沢な仕上がりの生地のみを使用しています。
接着芯が使われていないため、こういった上質な素材の良さをダイレクトに感じることができます。
生地が良ければ、良いスーツになる!というのはマヤカシです。
最高級の生地は最高峰の仕立てによって初めて本当の良さを発揮することが出来るのです。


優秀なサルト達がいて、特別な生地で仕立てる。
「Kitonは何故高級なのか?」の答えは全てここにありました。
そんな最高クラスの技術指導を受けられること、そして最高クラスの商品の一部を担うことが出来ることはとても光栄だと思いました。
ここには、誇りに思えるモノづくりがあるのです。
Kiton3にある学校のこと
Kiton3にある学校のこと、気になりませんか?
「工場の中になんで学校があるの?」と思いますよね。
Kitonでは、工場で働く未来の担い手を一から育成し、職人文化を守っています。
更にそれをイタリア政府がバックアップしてくれているのです。
その支援もあり、29歳までは授業料が無料とのこと。
「Kitonの技術がタダで学べるなんて…!」と、荒川はかなり羨ましく思いました。


現在も続くチーロ・パオーネの想い
Kitonの創業者Ciro Paone(チーロ・パオーネ)は、ナポリの仕立て文化を後世に伝えたいという理念のもとにKitonを立ち上げました。
イタリア政府の援助もあり、その想いはしっかりと受け継がれているのではないでしょうか。
「ナポリを代表する文化」として維持するための制度。
職人を育てて技術を絶やさないようにするための環境。
更には職人が憧れの職業として、ナポリの人々に浸透していること。
荒川はそれらのことにとても感銘を受けました。
ナポリに来て技術を学ぶだけでなく、この地で感じたチーロ・パオーネの熱い想いが、荒川の進むべき道を教えてくれたような気がしました。
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2023年1月 阪急メンズ大阪にて
阪急メンズ大阪1階にて、このナポリでの修行の際に作成した、Mod.LASAが展示されました。
『ド偏愛』A man with kaleidoscope
ありがたくその中の一人として選んでいただきました。
阪急メンズ大阪のHPにて、インタビューも掲載していただきました。
開催期間 2023年1/18-1/31