【ナポリ編】ビスポークテーラー奮闘記⑩
Kitonで過ごす日々
Kitonでの修行期間中は、勉強というかたちなので無給で働いています。
ということで、またまた貧乏生活の始まりです。
しかし、食べ物に困るということはありませんでした。
Kitonの工場には食堂があり、料理は全て無料でいただけます。
更に物凄く美味しいのです。
《Kitonの食堂》
お昼のチャイムが鳴ると、みんな食堂に走って行きます。
ごはんの量はおかわり出来るほど用意されているので、早い者勝ちというわけではないのです。
みんなが走って向かう理由は、ただただお腹が空いたので早く食べたいということでした。でも走ってしまう気持ちはとてもわかります。荒川もナポリで一番美味しいと思ったのはKitonの食堂のごはんでした。

《配給の様子》
食堂のおばさんは世話焼きなのか、荒川の番が回ってくると毎回山盛りのパスタやニョッキを取り分けてくれました。すごい量でしたが、残すとおばさんに悪いなと思って、全部残さず食べていました。
「ボーノ、ボーノ」と言うと、喜んでくれて「これも食べろ!」と色んな人が沢山食べ物をくれるのでした。

Kitonの人々
昼休みはごはんを食べながら、みんなで楽しくいろんな話をしました。
荒川はKitonで働く初めての日本人だったので、みんな興味を持ってくれました。
その中でも、下ネタが大好きなおじいちゃん、ジェナーロとは特に仲良くなりました。
ナポリの人々は人懐っこく人情味に溢れていて、人種の違い、言葉の壁、そんなものはお構いなし。見ず知らずの荒川をあっさりと受け入れてくれたのでした。

毎週金曜日には、16時からパーティーが始まります。
仕事場のテーブルにピザやフォカッチャを広げて行うプレミアムフライデーです。どこから持ってきたのか、気が付けばワインやドーナツなども並んでいます。
日本では毎週パーティーなど考えられないことかもしれませんが、いつもみんな仕事に一生懸命取り組んでおり、メリハリを持って働いています。そして毎日、生き生きとした表情をしているのがとても印象的でした。おしゃべりしながら楽しそうに働いています。
Kitonの職場の雰囲気はとても良いものでした。
ロンドンや日本で職人として働いていた時は、みんな黙々と作業していたのでこういう生産の現場もあるんだと、新鮮に思いました。
ナポリに来てからの異変
そんなナポリで美味しい日々を過ごしていた荒川。
ナポリには美味しい料理だけでなく、禁断の飲み物があったのです。
イタリア人はカフェが大好き。
みんなすぐに「Caffè (キャッフェ)!」と言ってこまめにカフェ休憩を取ります。
特にナポリはエスプレッソの聖地です。
ナポリでの日々にエスプレッソは欠かせません。
そんなイタリア人のガソリンと言っても過言ではない、エスプレッソ。
そして、そのナポリ流の飲み方とは、エスプレッソの入ったあの小さいカップに、たっっぷりの砂糖を入れて飲むのです。
砂糖でドロドロのエスプレッソ、実はこれがめちゃくちゃ美味しい!!
この甘〜いエスプレッソを1日に5回は飲みます。
困ったことにKitonの工場内にはLAVAZZAの自販機があり、エスプレッソが60セントで飲めるのです。
ナポリ流エスプレッソの虜になってしまった荒川は、気が付けば日本から着てきたYシャツがキツくなってしまいパッツパツに。ボタンが弾けそうです。
自分の丸くなったお腹を見て、ナポリの陽気なおじいちゃんたちのお腹がぽっこりしている原因はこれだと確信しました。
こうして、ナポリの食文化と人々の優しさが荒川のお腹を育んでいったのでした。
創業者チーロ・パオーネのコレクション
Kitonの工場には、創業者チーロ・パオーネが好んで集めたコレクションが数多く飾られています。


ここには、英国ファッションのアイコン、ウィンザー公爵(イギリス王室の皇太子)が実際に着用していた服が展示されています。
「王冠を賭けた恋」等、ヨーロッパ屈指のプレイボーイで有名なウィンザー公はイタリア人に人気だとか…。

ウィンザー公には、
・シングルブレステッドの時はボタンの1番下は留めない(イングリッシュドレープ)
・彼が愛用していたシャツの襟がウィンザーカラーと呼ばれるようになった
・スーツにスエードの靴を合わせることはタブーとされていた中、スエードの靴をコーディネートに取り入れた
・プリンスオブウェールズ(グレンチェックにブルーのラインが入ったチェック柄)は彼が皇太子の時に愛用していた
…等の逸話があり、
現在も彼が好んだファッションは自然と沢山の人々に愛されています。

《見えづらいですが、肩のラインがかなり後ろに振ってあります。古い作りですね。》

お洒落とモテ度は比例するのでしょうか…。
いずれにしても、切っても切れない関係であることは間違いないですね。
身だしなみに気を遣うことは決して無駄ではないと思います。
続く。